密かに悩む女性も多数? 「尿もれ」のメカニズム

尿もれの大きな原因は骨盤底筋群の緩み

最近は専用のパッドが店頭に並んでいたり、テレビCMなどでも宣伝されているので、まだ経験したことがない人でも「尿もれ」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。

通常、膀胱に尿が少ししかたまっていない段階では大脳が排尿を抑制しています。膀胱がいっぱいになると「排尿OK」のGOサインが伝わって抑制が解除され、尿道が開いて排尿されます。ところが、何らかの原因で膀胱の機能が低下すると、少量しかたまっていないのに強い尿意に襲われて頻尿になったり、腹圧がかかった瞬間に抑制がきかなくなり、尿がもれてしまうことがあります。

女性に多いとされる「尿もれ」の最も大きな原因は、骨盤底筋群の緩みと考えられています。骨盤底筋群は恥骨から尾骨まで張り巡らされたハンモック状の筋肉。骨盤の一番下に位置しています。この筋肉群が弱って緩んでくると、尿道をしっかり締めることができなくなったり、膀胱を支えられなくなり膀胱瘤になったり、尿が少量たまっただけで切迫した尿意を感じ頻尿などの症状が出るようになります。
出産による筋肉のダメージや、閉経後、女性ホルモンが低下することで骨盤底筋群の筋力が弱くなって緩むことが多く、最近は出産と加齢という2大リスクが重なる高齢出産の患者さんが尿漏れを主訴に受診することが増えているようです。

出産や加齢のほか、肥満の人もリスク高

尿もれには、咳やくしゃみをしたはずみでもれてしまう「腹圧性尿失禁」と、トイレまで我慢できずにもれてしまう「切迫性尿失禁」の2つのタイプがあります。

腹圧性尿失禁は肥満の人や農作業などでしゃがむ動作が多い人、10kg以上の重い荷物を運ぶ仕事をしている人など、必要以上にお腹に圧をかけている人のリスクが高く、10~20代のまだ若い方でも「トイレが近い」などの排尿トラブルを抱えていることもあります。

また、切迫性尿失禁は高血圧や糖尿病、高脂血症などの生活習慣病との関連性が注目されています。生活習慣病は血管老化をおこしますが、膀胱の血流障害が切迫性尿失禁と関係しているのではないかと考えられています。

症状としては、腹圧性尿失禁の場合は、最初はせきやくしゃみをした拍子に、スプーン1杯くらい尿がもれてしまうという方が多いようです。それがだんだんひどくなり、歩いただけでもれる、さらに症状が進んでパッドをしないとダメなほど量が多くなるなど、普段の生活に支障を来すようになってしまうのです。

切迫性尿失禁は「尿意をもよおして、トイレに入った瞬間もれてしまう」という症状から始まって、1日1回程度の尿もれだったのが、1日のうちで何回も切迫した尿意を感じるようになり、それも感じたとたんもれてしまう、というように悪化していきます。
最初は腹圧性尿失禁と診断される人が多いのですが、年齢とともに切迫性尿失禁も合併して、最終的には腹圧性と切迫性両方の症状がある混合性尿失禁が増えてきます。

気づいたら早めに女性泌尿器科の受診を

このように放っておくと症状がどんどん悪化していくので、尿もれに気づいたらなるべく早く専門外来を受診しましょう。相談や治療は泌尿器科になりますが、泌尿器科というと男性が行く科というイメージで、何となく行きづらいという人もいるのでは?
大都市が中心で、まだまだ地方には少ないのですが、女性専門の泌尿器科もあります。当院は医師をはじめ、看護師など医療スタッフもすべて女性なので、デリケートなことや感覚的なことも話しやすいと思います。「恥ずかしいから」と放っておかず、インターネットなどで自分が行きやすい施設を探して、早めに相談していただきたいですね。

生活習慣の見直しで尿もれを予防!

「何となく頻尿の傾向がある」「まだ尿もれしていないけれど、ならないように予防したい」という人は、一度生活習慣を見直してみましょう。以下のことに注意していけば、将来の尿もれを防ぐことにもつながります。

●水分は過度に摂りすぎず、冬は1~1.5L、夏は2L程度に
※水分の控えすぎは熱中症などを招くため、適切な量の水分は摂るようにしましょう

●カフェイン、アルコール、香辛料などの刺激物はなるべく避ける

●太りすぎない

●便秘しない

●長時間しゃがまない

●重たいものを持たない

●尿意がないまま排尿しない

●きついガードルをつけない

中村綾子(LUNA骨盤底トータルサポートクリニック)日本泌尿器科学会専門医。キレーション治療認定医。2007年横浜市立大学医学部卒業。日本赤十字社医療センター臨床研修医を経て、2009年横浜市立大学泌尿器科病態学に入局。みなと赤十字病院、横浜市立大学附属病院、藤沢市民病院勤務を経て、横浜保土ヶ谷中央病院に勤務。2017年より、LUNA骨盤底トータルサポートクリニック院長就任。同院は、日本では、まだ少ない尿失禁の先進手術法「TFS」を採用し、かつ、女性スタッフのみによる女性専門の泌尿器科で、日々全国から患者さんが訪れています。