尿もれの症状で泌尿器科を受診した場合、検査から治療までどのような流れで進むのか、当院のケースでご説明したいと思います。検査では「超音波検査」「尿検査」「残尿チェック」「内診(膣の状態を診る)」を行います。尿もれや頻尿が重大な病気のサインであることは少ないのですが、膀胱腫瘍でも尿意切迫感などを主症状とする過敏状態を引き起こすことがあるので、超音波と尿検査を実施して、膀胱腫瘍などのチェックも行っています。
診察の結果、比較的軽症という方には当院ではまず、骨盤底筋リハビリテーションをお勧めしています。これは骨盤底筋群を強化するトレーニングで、どんな方でも簡単にできるものですが、正しいやり方を習得することが大切。当院では理学療法士が一対一で指導を行い、きちんとコツをマスターしたら自宅でも実施してもらっています。半年くらいを目安にしていますが、早い方だと1ヵ月くらいで効果が出て、軽症の場合は半年で7~8割が改善します。このリハビリテーションだけで尿もれがまったくなくなるケースも多いんですね。
薬はあくまでも対症療法で根治は難しい
「1日に何度ももれて量も多い」「外出も控えるほど症状がひどい」という場合は骨盤底筋リハビリテーションだけだと改善は難しいので、お薬を処方したり、手術をお勧めすることもあります。
お薬は尿道の括約筋を収縮させる作用のあるもので、飲んでいる間は症状を抑えられますが、飲まなくなったらまた戻ってしまいます。基本的には対症療法ということになるので、お薬だけで尿もれを完治させることはできません。
お薬は尿道の括約筋を収縮させる作用のあるもので、飲んでいる間は症状を抑えられますが、飲まなくなったらまた戻ってしまいます。基本的には対症療法ということになるので、お薬だけで尿もれを完治させることはできません。
効果は高いが欠点もあるTVT(Tension-free Vaginal Tape)手術とTOT(Trans Obturator Tape)手術
腹圧性尿失禁の最終的な治療になるのは手術です。現在、日本で健康保険が適用される尿失禁手術として定着しているのが「TVT」と「TOT」という方法です。これは尿道直下の膣を1cmほど切ってスペースを作り、ポリプロピレンという生体適合性の良いメッシュテープを置いて、尿道をU字型に補強するもの。この手術は日本全国どこでも受けることができて、かかる時間は平均30分以内、2泊3日程度の入院で済みます。
TVTは画期的で効果も高い手術ですが、尿道を補強するテープが膀胱と恥骨の間を通るために、まれに膀胱や恥骨裏の大きな血管を傷つけてしまうことも。この欠点を補うために、テープを入れる角度を斜めに変えて、閉鎖孔を通し膀胱や恥骨裏の大きな血管を避ける腸を避ける「TOT」という手術方法が開発されました。この手術は安全性が高いので、今一番多く採用されていますが、斜めなので尿道を支える力が少し弱く、重症例は「TVT」に比べて効果が低くなってしまうといわれています。
今注目の尿失禁先進手術「TFS」とは?
そこで新たに考えられたのが「TFS」という手術。テープの先端をアンカーと呼ばれるクリップで恥骨下の筋膜に固定します。尿道を補強するテープはTVTと同じ方向に留置されますが、恥骨裏を通らないので安全性が高いといえます。局所麻酔でできるので入院の必要はなく、日帰りで受けることができます。先進的な医療なので保険適用はなく、自費での治療となりますが、成功率は約90%で手術の効果は半永久的です。
術後、10人に1人程度は再発するといわれていますが、再発した場合でも術前に比べると尿もれの回数は圧倒的に減り、ほとんどの方は治療の効果に満足されています。
特に体重過多の人やもともと尿道が弱い人は再発するリスクがあるので、そのような方には、予防のために骨盤底筋リハビリテーションも継続していただいています。
日本でTFS手術を採用している医療機関は少なく、開院後から2016年末までに430例以上実施しています。尿がもれるという物理的な悩みから開放されるだけではなく、「安心して外出や旅行ができる」など生活の質自体が上がって、毎日を明るく、生き生きと過ごされている患者さんも多くいらっしゃいます。
尿もれの治療の基本は骨盤底筋リハビリテーション、そしてお薬、外科的治療と、段階や症状に適した治療法がいくつかあり、必ず改善が望めるので、我慢せず、ぜひ一度相談に来ていただきたいと思います。