「乳がん」-進む個別化治療を知っておこう

「乳がん」は、まず発見のタイミングで違いが

 乳がんの治療は、他の臓器のがんと違って「個別化治療」が確立しています。乳がんのなかでも、どのタイプのがんであるかにより治療方法が異なってきます。まずは、発見のタイミングの違い。がんの進行度により「早期がん」「進行がん」の2つに分けられます。特に早期がんの中でも「非浸潤がん」は、がん細胞がまだ乳房の中の乳管、あるいは小葉の中の基本構造(基底膜)にとどまっている場合で、ステージでいうと0期。

ここで発見できれば、転移の可能性がない状態であるため腫瘍を手術で切除するのみで、治療が完結し後々の薬物治療などは不要になることがほとんどです。そしてがん細胞が基底膜を超えた浸潤がんではあるものの腫瘍の大きさが2センチ以下でしかもリンパ節転移がない状態が1期。ここまでが早期がんと呼ばれます。0期と1期の場合、治癒する可能性は95%以上です。腫瘍の大きさが2センチを超えわきの下のリンパ節への転移などが加わってくると、ステージ2期以上の進行がんという段階になります。この場合は、がん細胞がリンパや血管などに入り込み、全身の流れに乗っている可能性があるため、肝臓や肺骨などのほかの臓器へがんが波及する可能性(転移の可能性)が出てきます。したがって乳房の手術だけでなく、手術と組み合わせて、転移や再発を予防するため、あるいは治療するために全身的な薬物治療の組み合わせが必要となります。このような全身治療は治療時間も長く、また治療費もかさんできます。

ホルモンの関係でもタイプが異なる

 乳がんにおいて次に区別されるのが、女性ホルモンががん細胞の成長を促しているか、またはそうでないかです。女性ホルモンが関係している場合(女性ホルモン受容体陽性)には、全身治療は主に女性ホルモンを抑えるための治療になり、そうでない場合(女性ホルモン受容体陰性)は主に抗がん剤を使用することになります。

よく、他の人の治療例を聞いたり読んだりして、自分の乳がんと治療が違う…と疑問を持たれる方がいるのですが、がんのタイプの違いでそれに効果のある治療が全く変わってくるため、同じ乳がんといっても人により治療が異なるのです。

 

ライフスタイル、自分が何を重要視するかでも変わる

 そして、最後はご自身が治療の先で何をしたいか、どうありたいかという希望によって、治療も準備しておくことも変わります。それは例えば、スポーツを続けていきたい、治療後に赤ちゃんを産みたい、または乳房を残したいなどです。
治療後に赤ちゃんを産みたいという人は、前もって卵子凍結などの準備をしておく選択肢もありますし、乳房を切除しなければならない場合は、新たに乳房を作る(乳房再建)こともできます。
このように、乳がんの治療は実に細かく分かれていて、さらには薬の開発も進んでいます。 昔は「がんは死ぬ病気」、乳房を取られてしまうくらいなら乳がん検査はしない、という人も多かったのですが、乳がんは発見が早ければ早いほど、治療の選択肢が多いがんです。逆に早く見つけないと、せっかくあった選択肢が限られてしまいます。早期の発見をするために、乳がん検診は年に1回必ず受けることを習慣にしましょう。
ピンクリボンブレストケアクリニック表参道 島田 菜穂子院長 放射線専門医 マンモグラフィ認定医(A判定)日本乳癌学会認定医 日本がん検診診断学会認定医 産業医 健康スポーツ医 日本体育協会認定スポーツドクター NPO法人乳房健康研究会副理事長 筑波大学医学専門学群卒業。筑波大学附属病院放射線科、東京逓信病院放射線科医長1992年同院で乳腺外来を開設。フランス、アメリカへ留学。帰国後も放射線科で診療する傍ら、2000年乳がん啓発活動を行う日本初の認定NPO法人乳房健康研究会を発足、講演や出版イベント開催等ピンクリボン活動を展開。2008年3月ピンクリボンブレストケアクリニック表参道を開院。ホノルルマラソン3回完走、週一回の休日もスポーツやトレッキングといったアウトドアを楽しむなどスポーツ好きの一面も。