産科婦人科医が担う、女性のトータルヘルスケア

日本産科婦人科学会が本格的に「女性のヘルスケアアドバイザー」を養成

日本産科婦人科学会では、長年、周産期医学、婦人科腫瘍学、生殖内分泌学の3本柱に取り組んできましたが、10年ほど前から女性のトータルヘルスケアの重要性が注目されるようになりました。日本女性の平均寿命が86.83歳まで延び、社会の状況やライスタイルが多様化していることをふまえた上で、産科婦人科に関わるさまざまな領域を有機的に結び付け、幅広く多様な視点から、若年期から老年期まで女性の生涯にわたる健康のケアをしていこうというものです。

日本産科婦人科学会では平成26年から産科婦人科医を対象とした「女性のヘルスケアアドバイザー養成プログラム」を実施しており、初年度に全国で約100名の医師が受講しました。私もその中の一人で、これまでの臨床経験や従来の学会では学ぶことがなかった新たな分野の知識や情報を得ることができ、その後の診療に活用しています。

児童期から老年期まで、世代に合わせた切れ目のないサポート体制を

女性のトータルヘルスケアを実践していくうえで大切なのは、あらゆる世代の女性を対象に、個々に必要なサポートを行うことです。

当院でも、児童期は虐待や性被害、思春期には性教育や子宮頸がん予防、性成熟期には妊娠出産、不妊治療、性感染症、子宮がん、子宮内膜症や月経トラブル、更年期以降では更年期障害、生活習慣病、骨粗しょう症、臓器脱や尿失禁など、女性の各々の世代に起こりやすい疾患の治療や予防に幅広く取り組んでいます。
また、疾患の背景に精神的な問題や社会的な要因が潜んでいることも多いので、院内の思春期保健相談士が中心となってカウンセリングにも力を入れています。

QOLやパフォーマンスを高めるためのOC/LEPの活用

女性は進学、就職、結婚、出産など、世代ごとにさまざまなライフイベントを抱えています。 大切な場面で最大限のパフォーマンスを発揮したい、仕事などの都合を考えて妊娠出産の時期を考慮したい。

そんな時に役立つのがOC/LEPによる月経のコントロールです。日本ではまだまだ避妊薬への理解が浅いのですが、産科婦人科医の正しい指導の下で活用すれば、健康増進やQOLの向上が期待できます。当院では、女性のトータルヘルスケアの一環として、OC/LEPの活用にさらに力を入れていきたいと考えています。

かかりつけ医を見つけるために、がん検診で婦人科デビューを

女性にとって、今でも産科婦人科の敷居は決して低くはありません。若い方で診察への戸惑いから受診をためらうケースも多いようです。また、出産後は育児に忙しくて時間がない、更年期以降は今さら受診するのは恥ずかしいと、足が遠のいてしまう方が多いようです。そういった方々でも比較的受診しやすいのが、市町村が実施しているがん検診です。婦人科疾患は年代を問わず定期的な子宮がん検診を受けておくのが望ましいので、まずは検診に出かけて、クリニックの雰囲気や先生との相性を確かめてみてはいかがでしょう。万人向けのクリニックというものはなく、先生によって得意分野も異なります。先生の肩書や評判よりも、自分自身との相性、「この先生なら信頼できるか? 」といった感覚を基準に、末永くつきあえるかかりつけ医を見つけてほしいですね。
※QOL=quality of life(生活の質)の略称
※OC=低用量経口避妊薬
※LEP=低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬

 
船津 雅幸 先生(船津クリニック)昭和大学医学部卒業後、昭和大学病院、亀田総合病院、共立蒲原総合病院など7つの地域の中核病院と2つの医院勤務を経て平成18年12月にクリニック開業。患者さんが言いづらいこと、本当に悩んでいることを理解できる存在になるべく、患者さんとの丁寧な対話を心がけ、いい意味で『おせっかいな町医者』を目指している。