知っておきたい 卵巣チョコレート嚢胞とがん

一見健康そうな20代、30代の女性でも知らないうちに進行しているといわれる「卵巣チョコレート嚢胞」。どんな病気なのか、放っておくとがんになるリスクもあるのか。その原因や適切な治療法などについて、みずほ女性クリニックの津田浩史先生に詳しいお話を伺いました。

卵巣チョコレート嚢胞ってどんな病気?

子宮の内側は子宮内膜という組織で覆われていますが、この子宮内膜に似た組織が何らかの原因で、卵巣・卵管や腹膜、腸など子宮の外にも発生することがあり、この病態を子宮内膜症と呼びます。

卵巣チョコレート嚢胞もこの病変の1つで、卵巣に発生して袋(嚢胞)ができ、その中に古い血液が溜まってしまう病気です。

卵巣チョコレート嚢胞を含め、なぜ子宮内膜症になるのかということについては、月経血の逆流や、卵巣組織の一部が何らかの原因で子宮内膜に化生(変化)してしまうという説が有力視されていますが、はっきりした原因は未だ解明されていません。

原因が不明ということは、なりやすい人の傾向を定めるのも難しいのですが、臨床的にみていくと、若い頃から月経痛の症状が強い人、また、家系的に子宮内膜症が多い人は将来的に子宮内膜症になる確率が高く、特に家族性の場合は通常の人に比べて7倍程度罹患する率が高いといわれています。

おもな症状は? 自分でわかる?

卵巣チョコレート嚢胞でもっともつらい症状は痛みです。月経痛はもちろん、性交痛や排便痛もあります。病変が広がってくると癒着なども起こるので、月経時以外にも骨盤が引っ張られるような痛みを感じることもあります。

痛みの程度については個人差があると思いますが、不思議なのは病気の進行度と痛みの強さは必ずしも一致しないということです。痛みはほとんどないのに、お腹の中を見たら癒着だらけだった、逆に、痛みは強いけれど、病変としては軽度であった……など。痛みが出る人がほとんどだと思いますが、ときどき自覚症状はまったくなく、がん検診や不妊治療を受ける前の検査で初めて見つかったというケースもあります。

卵巣チョコレート嚢胞の診断方法とは?

卵巣チョコレート嚢胞の診断法について、流れとしてはまず問診・内診ということになります。卵巣が腫れていないか、内診でダグラス窩(子宮の後方)に硬いしこりがないか、などをチェックします。

あとはエコー(超音波)検査ですね。卵巣チョコレート嚢胞のように血液が溜まった状態を診断する場合、エコーはかなり有効な手段になるかと思います。
まれに、エコーで診てもチョコレート嚢胞なのかどうか、見分けがつかないケースがあります。そのような場合はさらに詳しい検査として、MRIという断層撮影を行うことも。この検査を受ければ、どのようなタイプの卵巣腫瘍なのか、ある程度判明すると思います。

補助的な方法としてはほかに血液検査があり、この検査では血液中のCA-125という腫瘍マーカーを調べます。正常な場合でも月経時などには値が高くなることがあるので、これだけで確定的な診断は難しいと思いますが、子宮内膜症が進行すると高値になることが多いです。

卵巣チョコレート嚢胞が進行していくと、痛みがさらに激しくなったり、大きくなり、破裂して炎症や感染を起こしたり、癒着がひどくなると不妊の原因にもなってしまいます。

がん化する確率と注意するポイントは?

リスクの1つにがん化もありますが、がんへの変性に注意が必要なのは、年齢(特に40代以降)と、嚢胞の大きさ(サイズには諸説あり5~10㎝以上)、CA125高値などの場合です。この条件が揃うとがんになる率は一気に上昇しますが、卵巣チョコレート嚢胞が卵巣がん化する率は40代以降で全体の4%程度、全世代をトータルでみても1%弱と、それほど高い確率ではありません。

チョコレート嚢胞から発生する卵巣がんは進行スピードはがんの中では早いほうではないのですが、抗がん剤が効きにくいタイプのものが多く、進行してしまうと治すのが難しくなることもあります。また若年者やサイズの小さい場合も、がん化することはあるので、チョコレート嚢胞と診断されたら、そのまま放っておかず、経過観察していくことが必要です

個人によって違う理由 卵巣チョコレート嚢胞の治療法

卵巣チョコレート嚢胞の標準治療は、残念ながら現状では確立されていません。その方の年齢や病態、妊娠を希望しているかどうかなど、お一人おひとりに合わせて治療方針を立てていくことになるかと思います。

たとえば、特にがんのリスクが高まる40代以降で嚢胞の大きさが10cm以上ある場合(サイズには諸説あります)には、手術という選択が一番に考えられます。手術の方法も1つではなく、卵巣を全摘するのか、病変だけ切除したり、焼いたりして卵巣は温存するのか。また、腹腔鏡手術なのか開腹手術なのかなど、いくつかの選択肢があると思います。

一方で手術をした場合には卵巣機能が落ちてしまうので、年齢が若い方の場合は手術を避ける方向で考えます。卵巣チョコレート嚢胞は一度取っても再発することがあるので、何度も手術を繰り返していくと妊孕性が低下してしまいます。それは回避すべきなので、重症でない場合は低容量ピルをはじめとする薬物療法を選ぶことになるでしょう。

卵巣チョコレート嚢胞は根治が難しい病気とされていますが、低用量ピルなどで病変が縮小したり、まれにほとんどなくなってしまう人もいます。しかし薬を止めると病態は元に戻ってしまうことが多いので、薬を飲み続けながら、病気をうまくコントロールしていくことが大切になってきます。

この病気にはこれといった予防方法がないのが実情ですが、病態を悪化させないためには、毎回、月経痛が強い人や家系に子宮内膜症がある人は一度婦人科を受診し、なるべく早く異常を見つけることをおすすめします。

確定診断を受けて治療方針を決める際、施設によっては考え方が異なる場合もあるので、迷ったら他の施設でセカンドオピニオンを聞いてから決めてもいいでしょう。長期にわたる治療になるので、ご本人が納得して受けることが重要だと思います。

津田 浩史 先生(みずほ女性クリニック院長)大阪市立大学医学部、同大学大学院医学研究課外科系専攻産婦人科学卒業。大阪市立総合医療センター産婦人科、慶應義塾大学医学部産婦人科勤務、米国国立がん研究所、米国ハーバード大学ブリガム・アンド・ウィメンズホスピタル留学等を経て、2013年、東京・国分寺駅前にみずほ女性クリニックを開設。同院のモットーは「頑張っている女性を応援するクリニック」と「専門医による地域医療」。思春期から老年期まで女性の一生をトータルでサポートします。