ゆるみから尿もれや腎機能低下を引き起こすことも
このような症状だけなら我慢できるかもしれませんが、ゆるみが進むと臓器が下がってきて骨盤臓器脱(骨盤内にある臓器が本来の位置から下垂して、膣から脱出してしまう)という状態になり、排尿障害を起こして腎機能が悪化してしまうこともあります。また、一方に引っ張られる痛み(牽引痛)が特徴的な慢性骨盤痛を起こす人もいます。慢性骨盤痛の頻度は女性の20%に及ぶともいわれています。
さらに、膣のゆるみは尿もれを引き起こす原因にもなります。膣は尿道を支える働きもあるので、膣のゆるみとともに尿道もゆるみ、結果、尿がもれるようになるのです。膣の後方の筋肉がゆるんでくると、便失禁を起こすケースもあります。
出産後や女性ホルモンが低下する閉経後の人がなりやすい
膣のゆるみを起こしやすいのは、年齢がまだ若い場合は出産後の人です。また、加齢とともに膣のゆるみはすすみ、閉経後さらに加速します。
程度の差はあれ、閉経後は加齢現象として誰にでも膣のゆるみが起こります。
また、年齢が若くても出産をすると結合組織が壊れるので、出産前と比べると弾性がぐっと低下します。ホルモンのバランスが整い出し、出産後1年くらいである程度戻ってくるといわれていますが、ダメージが大きかった人はゆるみが続く場合もあります。
膣がゆるむ原因には、膣そのものだけでなく、骨盤を構成する靭帯や筋肉も関係しています。骨盤の中には膣のほか、膀胱や子宮などの臓器が存在していて、それを支えているのが靱帯や骨盤底筋群という筋肉。靱帯がゆるんだり、筋力が低下すると当然、膣にも影響が出てきます。私たち医療側は、これらも含め、膣のゆるみととらえています。
基本の治療法は骨盤底筋を鍛えるトレーニング
治療や対処法については、いくつか選択肢があります。まず、基本になるのは理学療法です。当院では理学療法士の指導のもと、骨盤底筋を強化する骨盤底筋体操というトレーニングをおすすめしています。
骨盤底筋を鍛えるという考え方では、ほかにも今、「ガスケアプローチ」という方法が注目されています。これはフランスの婦人科医であるガスケ医師によって確立された、姿勢と呼吸から骨盤底筋に働きかけるアプローチです。一般社団法人 日本ガスケアプローチ協会による一般向けクラスなどもあります。
薬物療法では、閉経して女性ホルモンが低下している人には、それを補充するホルモン療法などで症状が改善されることがあります。
パートナーに膣のゆるみを指摘されて非常に気にしているという人は、外科的な方法を望むケースもあります。それは膣の余剰な部分を切って縫合する「膣縫縮術」というものです。手術なので体操などに比べて体の負担は大きいのですが、結果が出やすく、ご本人の満足度も高いです。
自費診療では、結合組織の増加を期待した治療もあります。経膣エコーのような器具を膣に挿入して、中から高周波や超音波を当てて、コラーゲンを増やすという方法です。美容皮膚科でも同様の原理で顔のシワやたるみを改善する施術がありますが、その膣バージョンと思っていただければいいでしょう。
1回15万円程度の料金で、1年ほど効果が持続します。痛みはほとんどないので、症状が軽い場合には、エステ感覚で受ける人もいるようです。
妊娠・出産前から対処して「ゆるみ」を最小限に
膣のゆるみは、放っておくと尿もれや腎機能低下など体に悪影響をもたらしますが、それだけでなく、パートナーとの関係悪化や女性としての自信喪失など、精神的な問題を引き起こすことも多いようです。
特に年齢が若い方は、今、症状がなくても、妊娠・出産前からトレーニングを行えば、出産によるダメージを食い止めることができます。まずはきちんと知識を持ち、自分に合った方法で予防に努めていただきたいですね。