過多月経を治療する「マイクロ波子宮内膜アブレーション」とは?

過多月経に苦しむ女性は日本国内で推定約600万人とも言われています。「マイクロ波子宮内膜アブレーション」をいち早く取り入れ、過多月経の治療にあたっている浅川産婦人科・浅川恭行先生にお聞きしました。

過多月経とはどんな状態?

過多月経は、日本産婦人科学会では1回の月経時につき、出血量が140㎖以上と定義されています。経血量が多くてもふつうに生活している方も多いのですが、「昼間も夜用ナプキンを使用しないとつらい」「月経中は白いワンピースやパンツを着ることができない」という人、また、月経時の出血による貧血、全身のだるさなどがあり、生活や仕事に支障が出る状態の人は、明らかに過多月経だと思われます。

原因は子宮筋腫、子宮腺筋症など子宮系の疾患である場合がほとんどですが、中には原因がわからないケースもあります。

従来よりも効果の高い新治療が登場

これまでの治療法としては、ホルモン剤や止血薬、貧血であれば鉄剤などの薬物療法と、それでも症状の改善が見られない人を対象にした子宮摘出手術などの手術療法の2つでした。しかし、閉経がそれほど遠い話ではない40代には「今さら手術を受けるのには抵抗がある」「子宮がなくなるのはイヤ」と言う方も少なくありません。

そういう女性にとってうれしい、新しい治療法が登場しています。それが「マイクロ波子宮内膜アブレーション」です。腟から子宮へと細い管状の器具(アプリケーター)を入れ、超音波画像を見ながら、子宮内膜をマイクロ波で焼灼(しょうしゃく)する治療法です。ただし、これから妊娠を望まれる方は受けることができません。

新しい過多月経の治療法「マイクロ波子宮内膜アブレーション」

「マイクロ波子宮内膜アブレーション」の手術方法を具体的に説明すると、電子レンジと同じ周波数の電磁波(マイクロ波)を子宮内膜に照射して組織を壊死させます。1回ごとの照射範囲が限られているので、超音波画像で確認しながら器具の位置を少しずつずらし、計6~7回ほどの照射で子宮内膜全体を焼いてしまいます。(下記イラスト参照)

手術時間は約10分間と短く、日帰りも可能ですが、大事をとって1泊2日程度の入院とする病院が多いようです。それでも体への負担は小さく、1~2泊なら予定の多い方でもそれほど負担にもならないかと思います。


左:マイクロ波子宮内膜アブレーション手術前の子宮MRI画像

右:マイクロ波子宮内膜アブレーション手術1カ月後の子宮MRI画像(造影剤使用)

約9割が過多月経を改善! 保険適用治療で満足度の高い治療が可能

私がこれまでに「子宮内膜アブレーション」で手術した患者さんは、皆さん翌月から月経量が減り、半数の方は月経がなくなっています。このため、約9割の方がこの治療に満足されています。しかも、2012年度から保険適用治療となっているので、医療費と入院費も含めて10万円程度と費用は低額です。

子宮摘出手術を受ける場合には、当然入院期間は長くなります。しかも子宮を全摘しても、癒着など合併症のリスクもあります。過多月経のためだけに子宮を取ることに抵抗感がある人にとって「マイクロ波子宮内膜アブレーション」は有効な策だと思います。

ただし、「マイクロ波子宮内膜アブレーション」の治療が受けられる人は限られてきます。以下のような方は受けられませんので注意してください。

●今後、妊娠を望まれる女性

●子宮内膜がんなど、がんの疑いのある女性

●子宮が大きすぎてマイクロ波アプリケーターで処理できないと予想される女性

●子宮壁の厚みが、一部でも10㎜未満である女性

浅川恭行先生より まとめ

「マイクロ波子宮内膜アブレーション」は特に子宮筋腫、子宮腺筋症などによって子宮全摘の手術を受けた方が良い患者さんにおすすめの治療法です。この治療法の魅力は、先ほどもお話ししたように手術時間が圧倒的に短く、すぐに日常生活に復帰できること、しかも、翌月の月経時には効果を実感できることです。それまでの月経量が10だとしたら1程度に減るうえ、月経痛もかなり緩和されます。非常に患者さんの満足度の高い治療法です。
以前はこの施術を実施する施設も限られていましたが、今は徐々に増えています。過多月経だと感じているのであれば、すぐに婦人科で相談してみましょう。
もちろん、私もすべての過多月経の患者さんにこの方法をおすすめしているわけではありません。患者さんの症状や意向を踏まえたうえで、その方に合った治療を行っています。ただ、その選択肢の一つに「マイクロ波子宮内膜アブレーション」があることは、みなさんに知っておいてほしいと思います。
浅川産婦人科 院長 浅川 恭行 先生東邦大学医学部卒。同大学院医学研究科卒。同大医学部助手、東邦大学医療センター大橋病院産婦人科講師を経て、2009年より現職。東邦大学医療センター大橋病院客員講師、鶴見大学非常勤講師を兼任。日本産婦人科医会幹事、日本産科婦人科内視鏡学会理事などを務める。婦人科の分野では内視鏡を専門。子宮筋腫、子宮内膜症、卵巣腫瘍など婦人科系の手術を、身体への負担が少ない内視鏡によって数多く手がける。『女性にとっての一生の主治医』を目指している。