「腹腔鏡下手術」とはどういうもの?

変化を遂げている 卵巣嚢腫、子宮筋腫の手術法

  女性であれば「卵巣嚢腫」「子宮筋腫」という病気は身近で耳にすることが多いと思います。「卵巣嚢腫」は一言でいうと卵巣が腫れる病気ですが、いくつかのタイプがあります。

まず、比較的多いのが「成熟嚢胞性奇形腫」、別名「皮様嚢腫」です。

卵巣の中に脂肪(あぶら)や髪の毛が含まれているものです。初期には症状があまりないのですが、大きくなると卵巣がねじれる「捻転」を突然起こして強い痛みが生じ、救急車で運ばれるケースもあります。

もうひとつ多いのが「チョコレート嚢腫」といい、子宮内膜症という病気に起因するものです。通常なら体外へと排出される月経血や子宮内膜が何らかの原因で卵管を逆流し、卵巣の中に溜まってしまうことにより発生すると考えられています。

生理痛がひどかったり、骨盤痛(腹痛)があるのが特徴ですが、こちらは不妊症の原因にもなり、さらには長い間放置していると癌化することもあるため注意が必要です。

「子宮筋腫」は子宮にコブができる病気で、女性の4~5人に1人は持っているとも言われています。

子宮の外側にできる漿膜下筋腫では他の臓器を圧迫することがあり、頻尿や便秘の原因となります。

一方、子宮の内側にできる筋層内筋腫や粘膜下筋腫では生理の量が多くなり、それにより高度の貧血を起こしたりもします。

子宮筋腫はエストロゲンという女性ホルモンにより発育することが知られていますが、近年晩婚化が進んで妊娠回数が減ったことで女性ホルモンにさらされる期間が長くなり、子宮筋腫になる女性が増えていると思われます。

約20年前までこれらの病気に行われる外科的な治療は開腹手術しか方法がなかったのですが、近年「腹腔鏡下手術」がスタンダードになりつつあります。

開腹手術、腹腔鏡下手術の違い

 

  従来の開腹手術は入院が10~14日必要で、全快までの時間もかかり、社会復帰までに長期を要しました。もちろん痛みも伴います。

そして、何より腹部に目立つ大きな傷跡が残ってしまうというデメリットがありました。

一方、腹腔鏡下手術は、お腹に4カ所ほどの小さな穴を開け、カメラと鉗子を用いて手術を行います。

卵巣嚢腫は内容液を吸い取り、子宮筋腫は腹腔内で筋腫を砕くことにより小さな傷から腫瘍を摘出することができます。

穴はそれぞれ1~2㎝ほどの小さなものなので、傷跡が残りにくいのが特長です。

痛みも開腹手術に比べて少なく、入院期間も4~5日と短くなっています。

また術後の臓器の癒着が少ないため、妊娠を望む女性にとっても有利に働きます。

生活面でも身体面でもダメージが少ないのが腹腔鏡下手術のメリットです。

 

手術は信頼できる病院選びを

  手術を行わなければならない状況になった場合、やはり病院選びは大切です。

腹腔鏡下手術には高い技術が必要になるため、ある程度の症例数をこなしている病院、さらに“産婦人科内視鏡技術認定医”がいる病院であれば安心できるでしょう。

とはいえ、卵巣嚢腫や子宮筋腫ができたとしても、重篤な状態にならないことが一番大切です。

  年1回の子宮がん検診と超音波検査を受ければどちらも早期から見つけることができるのですが、日本では検診を毎年受けられている方はまだ4人に1人といった状況です。ぜひ年に1度は検診を受けることを心がけてください。

三楽病院 産婦人科部長 中林 稔先生 日本医科大学卒業。東京大学医学部附属病院助教、三井記念病院医長、虎の門病院医長、愛育病院医長を経て現職に。日本産科婦人科学会専門医・指導医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医、日本内視鏡外科学会技術認定医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医。年間300例もの腹腔鏡下手術を行い、また各地における講演や若手の指導も行うパワフルな先生。