卵巣嚢腫や子宮筋腫の腹腔鏡手術を受けた後、職場への早期復帰が必要な場合にはとくに、術後の経過や合併症のリスクが気になります。三楽病院産婦人科部長の中林稔先生にお話を伺いました。
腹腔鏡手術をするケースと術後の様子について
近年、外科治療のスタンダードとなりつつある内視鏡手術。
その1つである腹腔鏡手術も、手術後の体へのダメージが少なく、傷跡も残りにくいことから、婦人科では主に卵巣嚢腫や子宮筋腫の手術として行われています。
卵巣嚢腫は卵巣の中に異物が溜まってしまう病気で、脂肪や髪の毛などが内容液に含まれる「成熟嚢胞性奇形腫」、子宮内膜症という病気で卵巣内に血液が溜まる「チョコレート嚢腫」などがあります。
また、子宮筋腫は子宮にこぶができる病気です。
いずれも人間ドックなどの婦人科検診で見つかったり、体の不調を感じて婦人科クリニックを受診した際に診断されます。
しかし、これらの病気は見つかったらすぐ手術になるわけではなく、痛みが強い、あるいは生理の量が多いなどといった症状が強く生活に支障がある場合や、出産を望んでいて手術したほうが良い場合に医師の判断により行われます。
手術は、お腹に1~2センチの小さな穴を3~4ヵ所開け、そこから挿入したスコープ(内視鏡)の画像をもとに、電子メスや鉗子(かんし)などを使って進められます。
卵巣嚢腫の場合には卵巣の中にたまった内溶液を吸い取り、子宮筋腫は腹腔内でこぶ状に硬くなった筋腫を砕き、小さくして摘出します。
穴を開けた部分は溶ける糸で縫いますが、1ヵ月ほどで体に吸収され、傷跡も目立ちにくくなります。
術後は個人差はあるものの、開腹手術に比べて痛みが少ないことが特徴です。
しかし、腹腔鏡手術とはいえ、腹腔内の内容液やこぶを摘出するという外科的な処置は開腹手術と同じですから、摘出された部分の術後の痛みはある程度あります。
それでも痛む期間は手術日とその翌日くらいで、術後2日目くらいからやわらいできて、3日目には違和感がある程度になり退院できるまでに回復します。
考えられる合併症は?病院選びのポイントとは
合併症とは「予期しない事態」が起こってしまうことです。
腹腔鏡手術で合併症が起きる頻度は、全国平均でも1%にも満たない確率ですが、ゼロではありません。
たとえば腹腔内での縫合処置のスピードには限界があるため出血多量になったり、電子メスや鉗子などが腸や膀胱などにぶつかり他臓器損傷を引き起こしてしまう可能性もあります。
どの施設でも起こり得ることですが、より安心して手術を受けたいのであれば、症例数の多い病院を探すか、産婦人科内視鏡学会による技術認定医のリストから医師選びをするのも一つの目安となるでしょう。
仕事への復帰の目安は?力仕事も大丈夫?
とくに幼児期のお子さんを抱っこしなければいけないお母さんや保育士、重い荷物の運搬や仕分け、長時間立ちっぱなしの仕事、通勤が大変な人などは、退院後目安の期間はゆっくり休んで、十分に回復してから仕事に戻っていただきたいと思います。
●●●まとめ
最近、「内視鏡手術=簡単」というイメージを持つ人が多くなっている気がします。
そのためか、病院で腹腔鏡手術をすすめられた場合、術後すぐにでも退院でき、仕事にも復帰できるとイメージする人もいるようです。
しかし、腹腔鏡手術ではお腹の傷は小さくても、腹腔内は開腹手術と同様の処置をしているためまったく負担がないわけではありません。
ですから、仕事復帰の時期は退院時に主治医とよく相談し、無理をしないようにすることが大切です。
派遣社員やパート勤務など長期で休みを取りにくい人でも、職場に気がねすることなく、しっかり回復してから仕事を再開するようにしていただきたいと思います。