中絶手術を受けるとき

性暴力による妊娠など、意図していなかった妊娠で、やむを得ず人工妊娠中絶を選択しなければならないケースもあります。

女性の心と体に大きな負担をかける中絶手術。

いざという時、安全に手術を受けるための基本的な知識から、男性(この場合はパートナーに限らず)の責任と権利、若い皆さんへ伝えたいことなど、脇田先生に伺いました。

ワキタ産婦人科 脇田 哲矢 先生 慶應義塾大学医学部婦人科学教室にて研鑽を積み、大和市立病院産婦人科勤務を経て、ワキタ産婦人科を継承。年間約300 件の分娩に立ち会い、無痛分娩や帝王切開手術にも対応。「体にも心にもやさしい手術」を心がけ、さまざまな事情で産むことができない、どうしたらいいか迷っている女性が安心して相談できる体制も整えている。

「妊娠したかも!?」と思ったら

「避妊に失敗したかも」と思うデートがあった時には、3週間経過したところで妊娠判定薬を利用して調べてみましょう。妊娠判定薬は信頼性の高い検査なので、そこでマイナス判定であれば、まず大丈夫です。それでも心配でしたら、連続して使うより1週間後の再検査をオススメします。月経が遅れた時も検査したほうがいいでしょう。その時も、連続でなく、1週間あけて2回調べることをオススメします。

プラス判定が出たら、産婦人科を受診しましょう。中絶希望であったとしても、診察を受けてみないことには、どの程度進んだ妊娠なのかもわからないからです。中絶手術は、産婦人科のなかでも「母体保護法」で認められた指定医で行います。「中絶」で検索して上位に出てくる病院であればできるとも限りません。まずは近くの産婦人科に相談してください。そのクリニックで中絶ができない場合は、責任をもってしかるべき施設に紹介してもらえます。

妊娠12週を超えると心身へ大きな負担が

人工妊娠中絶手術ができるのは妊娠21週まで。日帰りでできる手術は10週までが適切です。

12週以降はお産と同じように薬で陣痛を起こして分娩、入院することになります。妊娠初期に比べて心身への負担がはるかに増すだけでなく、死産届けの提出や埋葬の義務、中絶費用のほかに埋葬業者への支払いも発生します。

安全な手術のためには入念な準備や検査が不可欠

手術の前にはさまざまな準備が必要です。妊娠の確認の検査に加え、術前に血液検査も行います。また、分娩未経験の女性は子宮頸管(子宮口)が狭く、子宮穿孔(器具で子宮に穴があくこと)の危険性が高いため、3時間から一晩かけて子宮頸管拡張術を行います。

人工妊娠中絶手術には、従来から行われている「掻爬法」と、近年増加している「吸引法」があります。衛生面や身体の負担軽減になるプラスチック素材のMVAキットを用いた吸引法は全国的に普及しつつありますが、やや費用が高くなります。

人工妊娠中絶手術の流れ

1.受診・妊娠の確定

順調な妊娠、流産、子宮外妊娠(異所性妊娠)のいずれかを確定させるために受診。流産の場合は中絶手術を行わず、子宮外妊娠の場合は手術で取り除きます(いずれも保険適用)。妊娠が確定したら中絶手術の日程を決めます。

2.手術の準備(前日~当日朝)

子宮の入り口を広げるため、拡張させる器具を入れます。膨らむまでに時間がかかるため、前日から入院したり、当日の朝に来院する必要があったりと、クリニックによって異なります

3.手 術(数時間~1日)

妊娠10 週までは掻爬法やMVAキットなどで人工妊娠中絶手術を行います。12週以降は分娩となります。

4.術 後

麻酔から覚めたら体調の確認をし、問題がなければ帰宅して安静に。個人差はありますが、翌日から普段通りの生活が送れるようになります。分娩の場合は3~4日程度入院します。

中絶手術に必要なもの

パートナーの同意

家庭内暴力や強制的な性交も考えられるため、パートナーの同意は必ずしも必要ではありません。一方で、パートナーには、妊娠の責任と権利があります。男性側に妊娠の事実を自覚させるためにも同意書のサインは大事だと考えられます。

親の同意

未成年者が手術を受ける場合は、原則として親の同意書が必要になります。知られたくない気持ちは理解できますが、医療施設側としてはトラブルが起こる可能性も考え、保護者の承諾を求めています。

産婦人科医として思うこと

昔は妊娠したらたとえ女性に不利な条件であっても、絶対に産まないといけないような風潮がありました。新しい命を受け取るのが仕事の産婦人科医として、信頼できる恋人関係にある相手となら、結婚や出産を考えてほしいという思いもあります。でも、それぞれに事情がありますから、中絶を選択したとしても、過度に罪の意識をもたないでほしいと思います。

この記事は、学生のための健康生活マガジン『MY Jineko』に掲載されたものです。
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