ピルでがん予防?卵巣がん・子宮体がんを回避するピルのメリット

ピルを服用していると、「卵巣がん・子宮体がんが予防される」という声と、「卵巣がん・子宮体がんのリスクが上がる」という声の正反対の2パターンの意見を耳にします。一体どちらの解釈が正しいのでしょうか。

しのざきクリニックの篠崎百合子院長にピルの知られざる効能と女性特有の病気である「卵巣がん」「子宮体がん」との正しい関係についてお聞きしました。

避妊以外にもピルには優れた副効用がある

経口避妊薬として知られているピルの歴史は古く、1960年にアメリカで最初に発売されて以来、50年以上使用されています。

この間、副作用軽減を目指して数々の改良がなされ、1973年にはエストロゲン含有量50µg未満の低用量ピルが開発され、日本でも1999年に認可されました。現在では極めて安全性が高いものとなり、世界中で約一億人もの女性が服用していると推定されます。 
「ピルを使うのは避妊したい人」というイメージがありますが、避妊効果のほか、ピルには副効用ともいうべき、いくつかの女性の体に良い効果をもたらす利点が明らかにされています。

その1つが女性にとって怖い病気「卵巣がん」「子宮体がん」リスクの減少。原因はまだはっきり解明されていませんが、すべてのがんにおいて、細胞が何かしらの刺激を受けることも、がん化を引き起こす要因になるのではないかと考えられています。

5年間の服用で卵巣がんリスクが50%も減少

卵胞が弾けて修復を繰り返す排卵は、卵巣にとって負担がないとはいえません。30年以上にわたって蓄積された海外のデータによると、ピルは卵巣がんに対して優れた予防効果をもつという報告がありますが、これは排卵が長期にわたり抑制されるための効果だと考えられます。

1年の低用量ピルの使用で10~12%、5年で50%、10年以上で80%までリスクが減少。この予防効果は服用中止後20年後ほどまで続くといわれています。そのため、海外ではピルを服用する理由の1つとして、母親が卵巣がんだった人が遺伝的リスクを考えて、がん予防として飲むというケースも多いようです。

生理不順の人はピルの活用で子宮体がん予防を

 また、生殖期のピル服用は好発年齢50~65歳である子宮体がんのリスクも軽減。これは規則的な月経により、子宮内膜をきちんと剥脱させる効果によるものだと思われます。

2年の使用で40%、4年以上服用すれば60%減少。卵巣がんと同様に、服用中止後もその効果が維持されます。

子宮内膜がきれいに剥がれない状態を放っておくと子宮体がんの発生率を高めることになってしまうので、生理不順の人はがん予防としてピルをうまく活用していくことをおすすめします。

「ピルががんを引き起こす」という報告はない

 

逆に「ピルを飲むとがんになりやすくなるのでは?」と心配する人がいますが、ピルの服用でがんの発生率が高まるというデータはありません。

一番注意しなければいけない疾患は静脈血栓症ですが、ピル使用者がこの病気で入院治療するのは10万人に10人程度。妊娠した場合、血栓のリスクはもっと高くなりますから、割合としては非常に少ないといえます。

医師の指導のもと、きちんと管理して適切に服用していけば問題はないので、通常の薬のように安心して使っていただきたいですね。

篠崎 百合子先生(しのざきクリニック 院長)

産婦人科医。1975年東京女子医科大学卒業後、同大産婦人科にて勤務。医学博士号取得。専門は不妊・女性ホルモン領域。1989年から都立大塚病院に勤務。周産期医療に携わり、医局長を経て、2000年しのざきクリニックを開院。性と健康を考える女性専門家の会委員。「仕事に忙しい現代女性は自分の体を顧みる機会が少ないのでは? 不調を我慢せず、気軽に産婦人科を受診してヘルスチェックを行って、快適な毎日を過ごしましょう」。