ピルを飲むなら知っておきたい「新常識」

 日本ではまだ普及率が約4%と低い数値のピルですが、ヨーロッパ諸国では「生理が始まったらピルを飲む」というほど、普及しています。まさに、車を運転するならシートベルトを着用するくらい、ピルを飲むことがあたりまえの地域があるのです。では、なぜ日本でピルがなかなか普及しないかというと、中絶に対する心理的な障壁が低いことに一因があります。

海外のある地域では宗教的な理由で、「中絶=殺人」と見なされ、それがたとえレイプであったとしても、中絶を選択できないという理由もあります。だからこそ、望まない妊娠をしたくない=ピルを飲むという選択になります。一方、日本ではそのような背景がほぼないため、望まない妊娠をしたら中絶をする、という選択が真っ先にくるのです。事実、日本の中絶件数は世界1位という現実があります。でも、一日約100円の負担で望まない妊娠を避けられるのですから、ピルはとても有効な薬なのです。

「飲まない方がデメリット」のピル

 ピルには、まず妊娠を避けるという目的もありますが、服用によって卵巣がん、子宮体がんなどのがんを防げることは、すでに統計上明らかになっています。その効果は5年飲むより10年、10年飲むより20年…と、服用した期間に比例すると言われています。ですから、ピルはあらゆる年代の女性に役立つ薬で、「飲まないことがデメリット」であると言えます。

副作用を気にする方がいますが、ピルの具体的な副作用は「めまい」や「吐き気」。これは、ピルを飲むことで体を妊娠状態にしているから起こる、まさに「つわり」です。副作用ではなく、体にスイッチが入ったことによって起こることなので心配はいらないでしょう。また、メーカーによって1日1回いつ飲んでも大丈夫なもの、決められた服用時間があるものがあり、飲み始めもそれぞれなので、かかりつけのドクターに相談しましょう。

世界的に広まっている「偽薬」に要注意

 実は近年、正規品に見せかけたニセ薬が世界的に出回っています。その中にはピルの「マーべロン」なども含まれています。実際に、私のクリニックにも「ピルを飲んでいるのに妊娠した」「出血がとまらない」などと訴えにくる患者さんがいました。話を聞いてみると、ピルを個人輸入で購入していた、ということがありました。

ネットで「マーベロン 個人輸入」などと検索すれば、あらゆる会社がヒットします。そのなかで「個人輸入代行」とうたっている会社がありますが、この「個人輸入代行」には大きな落とし穴があります。ネットで購入した薬が偽薬だと気づき訴えたとしても、その会社は「自分たちは代行しただけで、偽薬か本物かわからない」と言われたらそれで終わりです。偽薬で健康被害を被って、裁判のお金もかかった…そんな悲しいことはありません。また、海外旅行の闇市などで薬を購入した場合も同じです。被害を被ってしまったら、誰も保証をしてくれません。厚生労働省のホームページにも海外で購入する薬の危険性を掲載しているので、参考にしてみるとよいでしょう。

>>厚生労働省 医薬品等を海外から購入しようとされる方へ

幸い日本の医療機関であれば、製薬会社の正規代理店を通じたピルをきちんと処方することができます。ピルを飲みたい方は、必ずドクターから処方してもらうことをおすすめします。

川越 信隆先生(ケイ・レディースクリニック新宿) 東京都出身。日本医科大学卒業後、慶応義塾大学病院、医療法人財団荻窪病院、国立病院東京災害医療センター、日本医科大学病院、社会福祉法人 勝楽堂病院等で勤務。その後、東京・新宿センタービルにケイ・レディースクリニック新宿を開設。