女性ホルモンと上手に付き合うためには?

女性ホルモンは、体内で数多くの種類が分泌されているホルモンの一部でしかありません。「メディアによって間違いが広まっていますが、それは女性にとって本当に残念な事態です。 」というやすこレディースクリニックの林康子先生にお話を伺いました。

体内には約70種類のホルモンがある。女性ホルモンはあくまでその一部!

体調が悪いと、その原因を女性ホルモンのせいにする人がいます。もしくはホルモンといえば、女性ホルモンと思っている人も多いようです。しかし、どちらもいろいろなメディアから断片的に発信される、正しくない情報に基づいています。

〈ホルモンとは〉

●体内にある細胞で作られる物質であり、分泌される器官によってそれぞれ働きは異なります。

人間がつくるホルモンは70種類以上だと言われています。

●女性ホルモンは種類がたくさんあるホルモンの中のごく一部の総称でしかありません。

しかも、命を左右するような、強烈な働きをするホルモンではありません。

●ホルモンは、下垂体や甲状腺、副甲状腺、副腎、膵臓、卵巣など内分泌腺と呼ばれる器官、さらに、

血管や心臓、皮膚、胃、腸、脂肪など、体中のほとんどの場所から分泌されています。

●各ホルモンは、脳の視床下部からの命令を受け、血液で運ばれてそれぞれ臓器や体の部位に働きかけています。しかも、各ホルモンが働きかける臓器、体の部位は特定されています。

私たちは、生活環境や人間関係などさまざまな影響を受けることで、体と心が変化しますが、いつしかいつもの状態に戻りますね。そのように何かあっても通常の状態に戻してくれる、すなわち代謝の調整をしてくれるのがホルモンです。

女性ホルモンと男性ホルモンについて

女性ホルモンには、エストロゲン(卵胞ホルモン)と、プロゲステロン(黄体ホルモン)の2種類があります。エストロゲンはふっくらした胸やピチピチな肌など、女性らしい体を作る働きがあります。また、排卵の準備をするという働きがあるので、生理の終わり頃から排卵前にかけて分泌が高まります。もう一つのプロゲステロンは、子宮環境を整え、妊娠しやすいようにしてくれる働きがあります。

男性ホルモンは、女性の体内でもつくられています。分泌場所は副腎と卵巣です。しかも、女性の体内における男性ホルモンは、女性ホルモンの10倍以上とも言われています。男性ホルモンには、筋肉や骨格を作ったり、内臓脂肪の蓄積を軽減したりといった働きがあります。

大豆イソフラボンはあくまで女性ホルモンに似た働きをするもの

女性の中には体毛で悩み、女性ホルモンが少なく男性ホルモンが多いことが原因ではないかと考え、そのために、女性ホルモンを増やすにはどうしたらいいかと悩んでいる方もいます。

確かに男性ホルモンが過剰に作られることで発症する、多毛症という病気はあります。特に女性の場合、男性ホルモンは卵巣と副腎で作られるので、卵巣と副腎の疾患によって多毛症を発症するケースもあります。ただし、それ以外の、ただ毛深くなった程度のことに関して言えば、明確な原因や理由はありません。

いちがいに「男性ホルモンが増えたから毛深くなった」とは断定できないのです。また、女性ホルモンを増やしたら男性ホルモンが減るかというと、そういうことでもありません。「豆乳や大豆イソフラボンをたくさん摂取すれば良いのでは?」などという人がいますが、それも誤解の一つです。

豆乳や大豆イソフラボンは、女性ホルモンに近い成分のものなので、似た働きを少々してくれることはありますが、摂取したからといって、女性ホルモンそのものを増やす働きがあるわけではありません。そもそも卵巣という女性特有の器官から分泌されるからこそ、女性ホルモンという総称がついているのです。

ホルモンバランスを整えるため、まずは生活改善から始めよう!

体の各部位からそれぞれのホルモンを分泌するよう命令を出しているのは脳の視床下部で、卵巣に女性ホルモンを分泌するようにも命令を出しています。ただ、この視床下部は、少しでもストレスを感じると過剰に反応し、うまく指令を出せなくなります。とても繊細な器官なのです。

女性ホルモンのバランスが崩れるのは、女性ホルモンが勝手におかしくなっているのではなく、あなた自身が視床下部にストレスを与えるような生活を送っているからです。したがって、「体調が悪い」と感じた時にはまず、自身の生活習慣の改善を考えましょう。食生活に気を配り、適度な運動を取り入れ、生活のリズムを整えることが大切です。

つまり、女性ホルモンとうまくつきあうには、視床下部にストレスを与えないような生活習慣を自分で実践するのが一番の対策なのです。

林先生より まとめ

女性ホルモンは、30代以降少しずつ分泌量が減っていきます。それを機能性食品などで増やすことはできません。

どうか、体調不良の原因をすべて女性ホルモンのせいにする風潮に惑わされないようにしてください。ホルモンが悪いのではなく、ホルモンの働きを悪くしているのは、自分自身の生活なのだと理解してください。体調が悪いときは摂取している食べ物に偏りはないか、運動はどの程度しているか、仕事などでストレスをためていないかなど、ストレスの原因がどこにあるのかをチェックして、その改善から始めましょう。

林 康子 先生(やすこレディースクリニック 院長)平成元年日本医科大学卒業。以後、大学病院、横浜日赤病院産婦人科など勤務を経て、2003年、どなたも安心して受診できる産婦人科を目指し、横浜市都筑区にやすこレディースクリニック開業。モットーは「女性がより良く生きるために、正しい医療を提供する」。一人ひとりの悩みの解決を手助けできることがやりがい。婦人科一般のほか、婦人科検診、ピル外来、妊婦健診、更年期外来がある。親しみやすい人柄とわかりやすい説明で人気がある。林先生自身のストレス解消法は愛犬チワワのチェリーと散歩すること。