更年期に「うつ」状態になる人は少なくありません。治療にはホルモン補充療法などがありますが、症状が改善しない場合にはどうしたらよいのでしょうか。けい子レディースクリニック表参道院長の寺師恵子先生にお話を伺いました。
更年期でうつ症状になる理由は?
更年期のほかの症状と同じで、更年期のうつも女性ホルモン(エストロゲン)の低下による自律神経の乱れが原因です。自律神経の乱れは、体の変調だけではなく、精神的なものにも深く影響します。
更年期とは、一般的に閉経をはさんだ45歳から55歳くらいまでの時期を呼びますが、個人差が多いため、もっと早い時期から始まる人もいれば、60歳を過ぎても更年期症状に悩まされ治療が必要な人もいます。女性ホルモンの影響によるうつかそれ以外かは、医療機関を受診してホルモン値を検査することで診断できます。うつ症状が更年期の時期に始まったのであれば、まず婦人科の病院を受診するよいでしょう。
更年期のうつの場合、ホルモンバランスの崩れが原因となって体と心の症状が同時に出るので、女性は更年期になると程度の個人差はあるものの、特有の精神症状が現れます。しかし、ずっとうつ状態というわけではなく、動悸、頭痛、不眠をはじめ、やる気がしなかったり、イライラして落ち着いていられない状態です。ひどくなると、つらくて動けなくない、心が沈んで何もできない、イライラが止まらなくなる人もいます。おかしいな、と思ったら、すぐに医療機関を受診しましょう。
更年期うつになりやすい人は? ならないためには?
更年期のうつ症状がひどくなる方は、細かいことを気にする、くよくよしやすいなどの性格的な特徴があり、また更年期を気にしすぎている人にも多く見られます。さらに、家事も仕事もお子さんのことも、きちんとしようとする完璧主義の人も同様です。加えて、たとえばご主人の定年やお子さんの受験、親の介護など、日常の負担の要素が重なると悪くなっていきます。うつはホルモンだけではなく、周りの環境などいろいろな条件がからみ合ってどんどん症状が強くなりますし、更年期の年代ではそうした負担が重なりやすく、うつ状態になりやすくなる要因にもなっています。
更年期に入ったら、なるべく家に引きこもらず、外に出て運動や趣味など、自分の気分が良くなるようなことを積極的に実践していただきたいものです。
更年期うつへの婦人科治療は3カ月を目安に
婦人科での、更年期のうつ症状への代表的な治療はホルモン補充療法です。年齢により不足してきた女性ホルモンを外から補充する治療法で、経口剤(飲み薬)や、経皮剤(貼り薬・塗り薬)と、さまざまなタイプがそろっています。
これらはさまざまな更年期症状の緩和に有効ですが、うつ症状の場合には抗うつ剤を併用して治療を行います。治療を始めてすぐに効果が現れる人が多く、早期の改善が期待できます。しかし一方で、3カ月程度様子を見て改善されない場合は、精神科や心療内科の受診をおすすめすることもあります。抗うつ剤にはさまざまな組み合わせがあるので、専門医にお任せした方がよいからです。
ホルモン補充療法の治療には保険が適用されますし、症状が安定してきたら1~3カ月に1回程度の通院で済みます。治療期間はスタートから5年までとなっていますが、これは5年以上で乳がんのリスクが3%程度上がるというデータがあるからです。とはいえ、定期的に乳がん・子宮がんの検査を行っていれば問題なく、患者さんの希望や症状に合わせて期間の調整は可能です。
ただ、こうしたリスクを踏まえ、乳がんや乳腺炎の患者さん、そしてご家族に既往歴のある人などにホルモン補充療法は原則行えないことになっています。その場合は、漢方薬やサプリメントでホルモンバランスを整えて、更年期症状を緩和していくことになります。