生理不順でピルを飲む20~30代の女性は増えていますが、更年期を迎える40代の女性にピルは有効なの? と思う女性は多いのではないでしょうか。ピルの治療に詳しい四ツ谷レディスクリニックの小林秀文先生にお聞きしました。
ピルを飲むと更年期にならない? 40代にピルは有効?
40代で閉経前の女性がピルを飲んでいると、更年期障害がおこりにくいと思います。
女性は40歳になると女性ホルモンの分泌量がどんどん減っていき、50歳になるとゼロに近い状態となります。
比較すると、50歳の男性のほうが多いくらいです。
更年期障害は、閉経を挟んだ前後各5年、合計約10年の間に起こる不調です。
女性ホルモンが出ていた時期と、まったく出なくなった時期のギャップが大きいためにおこるものです。
ですから、ピルを飲むことでその落差が小さくてすむと考えます。
ですから私は「ホルモン補充療法(HRT)」と同じように、更年期の治療にピルはある程度有効だと考えます。
HRTとピルは、どちらも人工的につくられたエストロゲンとプロゲステロンを含んだ女性ホルモン剤ですが、含有量や体内での働きが異なります。
HRTは、エストロゲンの欠乏が原因の更年期症状緩和に使うもので、飲み薬や貼り薬、スプレー薬などでエストロゲンを補充します。
避妊効果がないので、閉経後の女性が対象です。
一方ピルは、避妊や月経困難症に使う飲み薬で、エスロトゲンの強度はHRTの4~5倍以上あります。
更年期の治療にピルを使うのはまだ一般的ではありません。
しかし「中用量ピル」に比べて、女性ホルモンの量が少ない「低用量ピル」は、HRTと同じ補充目的で使ってよいと考えます。
とくに、閉経前でも性活動がある女性には向くと思います。余談になりますが、「ピルを飲むと体はホルモン過多になる」と誤解している方もいらっしゃいます。
しかしそんなことはありません。
ピルを飲むと脳では、女性ホルモンが足りていると認知して卵巣がお休みし、女性ホルモンは出なくなり排卵もしなくなります。
そのかわり体内に入ったピルが、従来の女性ホルモンの量と働きを引き継ぐため、体内で適切なホルモンの量は保たれ、ホルモン漬けになる心配はありませんので安心してください。
40代でピルを飲むリスクは?
避妊や生理不順の改善など、ピルにはメリットがたくさんあります。
しかし本来、ホルモンが減っていく40代にピルを長期間飲み続けると心配なことも出てきます。
それは、女性ホルモンが引き金とされる子宮体がんや乳がんです。また、血管の中に血のかたまりができる血栓症も心配です。
タバコを吸う人や肥満、血圧の高い人などはとくにリスクが高いといわれています。
そこで、婦人科で定期検査をして、慎重に様子をみながらピルを飲んでもらいます。
当院では、受診の機会以外でも、患者さんが不安やいつもと違う些細なことをすぐに報告できるよう、メールや電話での対応をとっています。
40歳を過ぎると、誰しも体の弱い部分が出現します。婦人科以外での治療機会も増え、なかでも大がかりな治療の手術は、寝たきり状態になり血栓症のリスクが大きくなります。
そのため、ピルを飲んでいる方には、手術日などの相談にのっています。
なお、更年期が過ぎる頃には、次第に女性ホルモンのない状態に体が慣れていき、体調が安定します。
HRTもピルも、この安定状態にいたるまでの過渡期に行う治療だと思ってください。
更年期の治療には、ピル以外にどんな対策がある?
なんでも話せて、相談にのってくれる婦人科医を見つけておくと心強いと思います。
電話口で名のるだけで、医師が患者さんの年齢と顔をすぐに思い浮かべられる関係です。
というのは、更年期障害の原因はエストロゲン欠乏だけでなく、自律神経の乱れ、家庭や職場などの環境的なことも複雑にからみあっておこるからです。
そのため血液検査や内診のほか、患者さんがおかれている環境を理解する必要があります。私たち婦人科医には、ピルをまだ飲み続けるか、HRTに切り替えるべきか、他の科をすすめた方がよいかなどを判断し、適切な治療を決めるために、患者さんの話をじっくりと聞く問診がとても重要なのです。
遠慮なく医師になんでも話せる関係のほうが、治療はいい方向へ向かいます。
ひと昔前は更年期の治療はなく、女性は辛くても我慢するのが当たり前でした。
でも治療の選択がある今は、我慢する必要はまったくありません。
自分と相性の合う婦人科医をぜひ見つけて、更年期をのりきってください。
そして更年期以降も、婦人科医を上手に利用してほしいですね。