更年期はいつから始まるの? 更年期障害の原因は?

40代になると以前とは違う心身の不調を感じ、更年期のことが気になる人も多いのではないでしょうか。そこで、更年期が始まる時期や更年期障害の原因について、こうレディースクリニック・江ノ島の黄 宗聖先生にお話を伺いました。

更年期に関連する、卵巣の働きを知っておこう

女性の体が閉経へと向かうということは、卵巣から分泌される女性ホルモンの1つである卵胞ホルモン(以下エストロゲン)の分泌量が減ることを意味します。この時期、外からみると卵巣の大きさが小さく変化し、それにともなってエストロゲン分泌量も減少していきます。また、エストロゲンの減少によって起こる体へのさまざまな影響が更年期に出る症状であり、その中でも症状が強くなって、生活に支障を及ぼすまでになった状態を総称して更年期障害といいます。そのため、更年期障害を理解するには、エストロゲンが分泌される卵巣の働きを知っておく必要があります。

 

卵巣は、思春期頃から脳の刺激により徐々に大きくなり始め、当初縦1.0cm横1.5㎝ほどであったものが、18歳頃には縦2㎝、横3㎝とうずらの卵ほどの大きさになります。卵巣の中には、卵子が含まれている原始卵胞がストックされていて、脳からの刺激によって、全般的に原始卵胞をはじめとするあらゆる大きさの発育卵胞が成長していき、一番早く大きく成長した成熟卵胞だけが排卵できる資格を得ます。また、卵巣は卵胞が成熟卵胞になる2週間の間にエストロゲンを分泌し続けます。その分泌量がピークを迎えた直後に、卵胞内にある卵子が排出されます。このように生じる現象のことを排卵といいます。

 

排卵後、卵胞の大きさは少し小さくなり、わずかにしぼむものの、脳の刺激によって再び大きくふくらみ、その卵胞内の空洞化したスペースが黄体に変化し、黄体ホルモンとエストロゲンを分泌します。もし妊娠しなければ、黄体が萎縮することによって黄体ホルモンとエストロゲンの分泌量は減少し、やがて黄体は白体へと変化していきます。そして次のステップとして、卵巣の中から新しい次の原始卵胞と、排卵にいたらなかった発育途中の卵胞が再び成熟してくるのです。

 

20代から30代前半までは、成熟した正常の大きさにある卵巣がしっかり女性ホルモンを分泌し、それによって体の機能が正常に保たれる間は妊娠可能な健康状態を維持することができます。しかし、エストロゲン分泌量は、20代前半でピークにありますが、その後30代後半から少しずつ減少していくといわれています。

 

更年期障害が生じる3つの原因とは?

一般的によく言われている更年期障害が生じる原因として、エストロゲンの分泌量の減少、環境の変化、生まれつきの性格、すなわち気質、この3つだと考えられています。

 

40代以降は卵巣の大きさが徐々に小さくなるため、女性ホルモン分泌量が減少し、卵巣機能が低下した状態になります。そのことで、更年期症状があらわれてきます。

 

また、その他にエストロゲン分泌量の減少と大きく関係しているのがストレスです。ハードな仕事環境に置かれていたり、几帳面だったり、完璧でないと気がすまない性格などである場合、そうした環境をどうにか整えようとして、どうしてもストレスがたまってしまいます。そうすると、そのストレスをなんとかカバーするために多くのエストロゲンが必要となります。結果的にはストレスによってエストロゲンを消耗させます。また、加齢とともに卵巣が小さくなり、女性ホルモンの分泌が減少してしまうこともあって、より一層その減少が加速されることになります。

 

40歳を過ぎると、このような要因でエストロゲンが使われてしまうことから、ホルモン不足によりあらゆる症状を引き起こしてしまうのです。

 

更年期障害の症状は?

 

エストロゲンは体中いたるところの臓器に染み込んで入っているため、一旦ホルモンが減少することにより更年期に入るといわれています。更年期障害の症状は実にさまざまです。

 

エストロゲンが減ってしまうと、脳から卵巣へ分泌するよう刺激がくり返されます。ただ卵巣からのエストロゲン分泌量それ自体が減少している上に、更に脳からの刺激が加わると自律神経がコントロールできなくなります。そうすると自律神経失調症状―のぼせ、発汗、冷え、動悸、頭痛─などが起こりやすくなります。また、情緒不安定、イライラ、怒りっぽい、抑うつ気分、涙もろくなる、意欲低下、不安感といった精神的症状も出やすくなる傾向になります。便秘と下痢など、一見相反する原因の症状が起こる場合があるのです。

 

また、年齢を追うごとに症状が変化していくのも特徴です。更年期の初期は、のぼせ(ホットフラッシュ)、異常発汗、めまいなどの自律神経失調症状、50歳前後からは精神神経症状が出現し、そして長期にわたりホルモンが欠乏したままの状態が続くと、動脈硬化や骨粗しょう症といった症状が現れてきます。やがて、そのまま認知症やアルツハイマー病へと進行してしまうおそれもあります。

 

更年期を元気で過ごすためには……

 

 さまざまな症状が起きやすい更年期。元気に美しく質の高い生活を送るためには、まずストレスをためず、発散させることが大切となります。仕事がどうしてもつらい場合には、少し楽な仕事に変えたりといった生活上の工夫が必要になるでしょう。几帳面な性格なら、できるだけ気にしないように心がけることです。

 

また、更年期障害はエストロゲンが減ることにより起こる老化現象ですので、ホルモン補充療法を行えば、症状を軽減することができるのです。更年期に出会うさまざまな不定愁訴は、エストロゲンのE₂製剤を投与するとエストロゲンレベルが変化し上昇するので、症状改善をみればエストロゲン低下に起因していると診断できます。(E₂製剤による治療的診断法)

黄先生より まとめ

40歳頃から、老化によりエストロゲンは急激に減っていきます。そのため、この頃から少しずつ、足りない分だけホルモンを補充していけば、更年期を迎える時期になっても、さまざまな病気を防ぐことができます。たとえば今日まだ治療法を見いだせていない認知症において、ホルモン補充療法(HRT)は予防効果があります。認知症を防ぎ、その後も元気に若々しく過ごし、仕事もできるのです。現に、当クリニックでホルモン補充療法を行っている患者さんの中には、治療を始めた頃より骨が若返り、88歳で今もなお元気に仕事をされている方がいらっしゃいます。
黄 宗聖 先生(こうレディースクリニック・江ノ島 院長)1975年、九州大学医学部卒業。テキサス大学医学部ガルベストン分校に留学後、京都大学医学部産婦人科に入局。和歌山赤十字病院、倉敷中央病院ほか、数多くの産科・婦人科の症例を経る。1995年より更年期障害専門医として、茅ヶ崎中央病院レディースクリニックなどで勤務後、2010年、こうレディースクリニック・江ノ島を開院。日本女性医学学会 認定医、日本産婦人科学会 産婦人科専門医、メノポーズシニアカウンセラー、更年期と加齢のヘルスケア学会神奈川支部長、日本サプリメント学会・サプリメントアドバイザー。E₂製剤(エストラーナ)による更年期不定愁訴の治療的診断法を見いだす。2014年 論文“わが国のHRTがほとんど普及しない現実とその理由を考える-HRTを用いた治療的診断法とその普及について”を発表。更年期障害、HRT(ホルモン補充療法)、一般婦人科を診療。黄先生の趣味は患者さんと共にHRTを考える会で勉強すること。