女性アスリートがピルを服用するメリットとリスクについてみずほ女性クリニック院長・津田浩史先生に伺いました。
スポーツ界での女性の活躍にもめざましいものがあります。ただ、男性と違って女性アスリートには月経という問題があります。欧米ではピルでの月経コントロールは当たり前ですが、日本ではまだまだのようです。アスリートがピルを服用するメリット、リスクについてみずほ女性クリニック院長・津田浩史先生に伺いました。
アスリートに月経が及ぼす影響とは?
女性アスリート全体の約9割が、月経周期に伴うコンディションの変化を自覚しているとされます。月経直後から排卵期までは調子が良いけれど、排卵期以降は月経時までコンディションが悪くなる人が多いようです。不調の内容は月経痛、PMS、それと過多月経を訴える方が多いですね。ただし、個人差は大きく、月経中や月経前も調子が良いという人もいます。
さらに、柔道、レスリング、ボクシングといった階級制競技のアスリートにとって大きな問題なのが体重コントロールです。大会前には階級の枠内に体重を収めなければならないのですが、一般に女性は月経開始から数日は体重が減少し、排卵期で最低になるものの、そこから月経開始までの黄体期は増加していきます。というのも、黄体期は水分貯留作用が強くなるからです。体重の計量が排卵日前だったら調整できても、排卵期以降は体重が減りづらくなり、コントロールが難しくなります。また、筋力も排卵日後の黄体期には低下するという報告もあります。
長距離マラソンなどの持久性競技では、一般的には月経周期の影響は少ないと言われています。しかし、特に真夏の炎天下での大会の場合には、体温が高くなる黄体期だと、運動中の熱の放散を高めるため、皮膚血管が拡張し、活動筋への血流量の低下や酸素供給の減少を引き起こすという報告があります。その結果、排卵期前に比べてパフォーマンスが下がってしまうのです。
アスリートに処方されるピルの種類は?
大会当日に最高のパフォーマンスを発揮するためには、月経時期をずらすといった調整が必要になってきます。そこで活用したいのがピルです。基本的には一般の方と基本的には変わらず、多くは1相性ピルというホルモン量が一定しているものを処方します。有名なのがマーベロン。月経コントロールに使いやすい低用量ピルです。
数年前から超低用量ピルも出てきていて、こちらの方が副作用のリスクが低くておすすめしたいところなのですが、残念ながら現在は保険適用の超低用量ピルしかありません。月経痛や月経困難症であれば、処方できるのですが、月経コントロールやPMS軽減のために処方することが日本では難しいのが現状です。
最近、新しいタイプのピルが保険適応になりました。従来のピルは、4週間を1コースとして4週ごとに月経がくるように調節されていますが、長期間連続服用ができる超低用量ピルが処方可能となりました。ヤーズフレックス(最長120日連続服用可能)やジェミーナ(最長77日連続服用可能)では、月経痛を緩和するだけでなく、月経回数を減少させることもできます。ただし、連続投与のため、不正出血がいつ起こるか予測しづらいという面もあります。
ピルの服用に体を慣らすことも大切なポイント
ピルを服用し始めの3カ月は体重が増加したり、体重が落ちにくかったりします。不正出血や嘔吐、むくみといった症状が出たり、血栓も増加しやすいと言われています。しかし、それらは一過性のことが多く、最大酸素消費量に変化はなく、骨量もむしろ増加すると言われています。
とはいえ、服用開始時に不調を訴える人は多いので、できることなら大切な大会の2~3カ月前からピルを服用し始め、体をある程度ピルに慣らしておくことがポイントです。
試合や強化練習などの日程に合わせて服用期間を延長したり、短縮できるわけですが、ピル服用中は体が重いと自覚するアスリートが多いので、服用期間はできる限り短くする工夫も必要です。
ピルはドーピング禁止薬物ではないが、注意は必要
ピルを服用しているからといってドーピングで引っかかるということはありません。しかし、禁止薬剤は年に1回更新されるので、その都度基準が変わります。そのため毎年確認の必要があります。
一般の方にピルを処方する場合には、その方の症状――月経痛がひどい、子宮内膜症があるなど――に合わせて漢方薬を併用処方することもあります。しかし、アスリートには漢方薬はおすすめできません。科学的に合成された薬と違い、漢方薬にはどのような成分が含まれているかがわからないからです。
また、ピルの服用によって卵巣がん、子宮体がん、大腸がんのリスクは低下し、子宮頸がん、乳がんのリスクは上昇すると言われています。血栓症のリスクも、ピルを服用しない場合には1万人に対して1-5人、服用した場合は1万人に対し、3―9人となり、増加すると言われています。しかし、その頻度はわずかな差であり、必ずしもそこに焦点をあてるべきではないと考えています。正しい知識と適切な医学的管理の下では、リスクに対してそれほど神経質になる必要はないでしょう。
津田先生より まとめ
