セックスの時に痛くて腟の中にペニスを挿入できない、セックスが怖い、といった悩みを人知れず抱えている人もいるのではないでしょうか? 問題を改善するにはどうすればよいかについて、全国でもまだ数少ないセックス・セラピストの資格をもつ、咲江レディスクリニックの丹羽咲江先生にお話を伺いました。
セックスは本来、お互いが幸せな気持ちになるもの。痛みや恐怖を感じるものではない
「セックスの時に痛みを感じて腟の中に挿入ができない」と言う女性は結構多くて、20〜30代でも6〜7割の人が性交痛を経験しているといわれます。
セックスには、妊娠するため、そしてコミュニケーションのために行うという2つの大きな目的があります。コミュニケーションという視点で考えると、まず相手に対して好意をもって目を見つめ合うことから始まって、しっかり話をして、手を繋いで、ハグをして、キスをして、セックスに至るという段階を経て腟内挿入になるわけですね。この流れをお互いに納得いくものにするためには、パートナーと本当に望むセックスについてしっかりと話し合うことが大切です。
日本はアダルト動画が蔓延していたりして、“コミュニケーションのためのセックス”というのが忘れられがちですが、お互いが「気持ち良くて幸せだなぁ」と思うのが必要最低限の条件です。そうではない、「痛いセックス」や「我慢を強いられるセックス」というのは本来の目的から外れています。
セックスの時に「相手に気持ち良くなってほしい」とか、「相手がどう感じたかが気になる」というのは日本人女性の独特の感情で、相手の反応を気にするあまり、自分の苦痛を表に出せなかったり、気持ち良いふりをしてしまったりします。海外ではお互いが気持ち良くなるための一種のスポーツみたいなものと考えるのが一般的です。自分が気持ち良くなるために「こうしてほしい」とか、「こういう風にした方がいい」ということもはっきり言います。
日本の女の人ももっと自分の気持ち良さをはっきり口にしていいと思いますし、男女が対等で経済的にもお互いに支え合い助け合っていかなくてはいけない時代にあって、性のことだけが対等ではない、というのは変な話です。「痛いな」とか「つらいな」と思ったら一人で悩まず、パートナーや専門機関に相談していただきたいですね。
治療方法は、身体・精神両面からみて決める
腟の入口が痛い人は、腟口や外陰部が荒れてしまっていることが多いですね。腟口や外陰部の粘膜も肌と同じ体の一部です。睡眠が足りなかったり冷え性が悪化したり、疲労やストレスで負担がかかっている時には荒れてしまいます。何かに感染していたり雑菌が繁殖してかぶれている場合には、抗生物質を使って炎症を治していきますし、単に荒れている場合はヒアルロン酸などのローションを塗ってうるおいを回復させます。
お腹の奥が痛い場合は、子宮内膜症やクラミジア感染症といった病気があることが考えられるので、その検査をして治療します。腟内挿入が完全に無理だという場合は、処女膜強靭症といって処女膜が通常よりも厚く、自然にペニスを入れることができない人もいるので、切開手術をして入口を広げることもあります。当院では保険診療なので費用は5〜6千円位ですが、ご自身で検索されて美容整形のクリニックで20万円位で手術した、という方もいらっしゃいます。産婦人科で「処女膜切開を保険診療でできます」と明示しているところはまずないので、美容整形しかない、と思っている方も多いようです。
それから、たとえば性的な経験で怖い思いをしていたり、親からずっと「お前なんて価値がない」と言われ続けて自分の心や体を解放するのが恐かったり、無理矢理セックスされてしまったり、痛いセックスを何回も我慢したりといった、つらい経験をした人がセックスに拒否感をもつことがあります。そのような場合には、当院では臨床心理士のカウンセリングを受けてもらうこともあります。「痛い」という思いを数年間我慢し続けている人などは内診台に上がることも恐いと感じるケースもあり、そうした方には治療に時間をかけてていねいに行っていきます。
「痛い」と感じたら、何か原因がないかはっきりさせて早めに治療をしていった方が良いと思います。心にダメージを受けてしまっている人の場合には、カウンセリングと並行しながら、「腟ダイレーター」という棒状の医療器具などを使って、段階を踏んで腟に挿入するトレーニングを積み重ねていくことになります。
相談だけでなく、性機能障害の治療まで行うセックス・セラピスト
私がセックス・セラピストを目指したのは、「セックスの時に痛い」と相談に来られる患者さんが多かったので、セックス・セラピストを認定している「日本性科学会」でいろいろと勉強していくうちに、やはりきちんと資格を取ったほうが患者さんが安心されると思ったからです。婦人科を受診しても、「痛くてセックスができないんです」とはなかなか言いにくいものです。ですから、きちんと資格もあって治療もします、と最初から提示した方が相談しやすいのではないかと考えました。
セックスに関する問題を得意としている病院や専門にあつかっている病院はとても少ないのが現状です。まだまだマイナーな分野で、「痛かったり嫌だと感じるなら、努力をしてまでセックスをしなくてもいい」というのが産婦人科の先生のなかでもよくある考えです。一般的にも、「なぜ痛いのか」「なぜ嫌なのか」ということまで踏み込まない人が多いようです。
一方で、相談に来られる患者さんの年代は幅広く、なかには60歳位の方もいます。女性は閉経すると女性ホルモンが出なくなるので、腟口がだんだん狭くなっていきますし、外陰部の粘膜も薄くなってセックスはしにくくなりますが、治療をすることでセックスができるようになる方もいます。年代を問わず、腟内挿入ができないと「女性として得られるはずの幸せが得られない」とか、「自分は女性として欠損があるんじゃないか」と感じる方もいて、それができるようになって「女性として生まれてきて良かった! 」と言われる方も多いのです。
セックス・セラピストの資格を持つ方は全国でもまだ50人位しかいませんので、相談したい方は、当院以外にも「日本性科学会カウンセリング室」「獨協医科大学埼玉医療センター泌尿器科」「東邦大学医療センター大森リプロダクションセンター」などへ問い合わせてみてください。
丹羽先生より まとめ