第9回 月経痛のメカニズム

1.痛みの原因

思春期にみられる月経に関するトラブルで、月経不順に次いで訴えが多いのが月経痛です。

月経時には子宮が収縮して月経血を押し出そうとしますが、思春期の子宮は、発育が未熟で子宮頚管(子宮の出口)が狭いため、月経血が排出されにくく、子宮の収縮が下腹部に激しい痛みをもたらすのです。

子宮の収縮には、月経前から月経中にかけて子宮内膜のなかで分泌されるプロスタグランディンという物質が関与しています。プロスタグランディンは子宮の平滑筋を収縮させる作用をもっています。月経痛を訴える人は、月経痛のない人よりもプロスタグランディンの濃度が高いという報告もあります。

プロスタグランディンは胃腸の蠕動運動も亢進させるため、過剰に分泌されれば吐き気、腹痛、下痢などを引きおこす原因ともなります。また、月経前は女性ホルモンであるプロゲステロンの働きで子宮内膜が厚みを増し、血管も膨隆するため、これが鬱血(うっけつ=血液の流れが悪くなって滞留した状態)をおこして痛みの原因となることもあります。

2.「機能的月経困難症」と「器質的月経困難症」

月経痛が日常生活に支障をきたすレベルになった場合を、「月経困難症」といいます。月経困難症は、痛みの原因となる疾患が存在しない「機能的月経困難症」と、子宮筋腫や子宮内膜症など痛みの原因となる疾患が存在する「器質的月経困難症」に分けられます。

初経以来続く「原発性月経困難症」と、2次的に発症する「続発性月経困難症」に分けることもあります。

思春期の月経痛は、原発性に発症する機能性月経困難症がほとんどです。

3.早めの鎮痛剤が効果的

月経痛は鎮痛剤で落ち着く場合が多いのです。月経のたびに身もだえして七転八倒しつつも、「鎮痛剤を飲むとクセになるので、飲みたくない」と言って、脂汗を流しながら服用を拒絶する人がいますが、ナンセンスです。

鎮痛剤を月に何日か服用したからといって、クセになることはありません。市販の鎮痛剤が効かない人や、胃腸が弱い人は、医師に相談して鎮痛剤や漢方薬などを処方してもらうといいでしょう。

 医師が処方する鎮痛剤としては、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)であるロキソニン、ボルタレン、ポンタールなどがよく用いられます。これらの薬剤はプロスタグランディンの分泌を抑えることで効果を現わすので、月経が始まりかけたら早めに服用するのが理にかなっていて効果的です。

なお、痛みは患部を温めるだけでも、ある程度は和らぎます。ぬるめのお風呂に長めにつかったり、ホカロンを下着の上に貼るのも、自宅で手軽にできる対処法です。

宮沢あゆみ(医師・ジャーナリスト)東京都出身。早稲田大学第一文学部卒TBSに入社し、報道局政治経済部初の女性記者として首相官邸、野党、国会、各省庁を担当。外信部へ移り国際情勢担当。バルセロナオリンピック特派員。この間、報道情報番組のディレクター、プロデューサーを兼務。その後、東海大医学部に学士編入学。New York Medical College、Mount Sinai Medical Center、Beth Israel Medical Center へ留学。三井記念病院、都立墨東病院勤務などを経て、「あゆみクリニック」を開業。講道館柔道2段。